「できるだけ費用を抑えて本を出版したい」「在庫を抱えずにAmazonで書籍を販売したい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
そのような場合に選択肢となるのが、POD出版です。
POD出版は、注文が入ってから必要な冊数だけを印刷・製本する出版方法です。大量印刷や在庫の保管が不要なため、販売部数を予測しにくい書籍や、少部数から販売したい書籍に適しています。
一方で、1冊あたりの印刷費が高くなりやすい、用紙や加工の選択肢が限られるなどの注意点もあります。
この記事では、POD出版の仕組みや自費出版との違い、必要な費用、Amazonで販売するまでの流れについて詳しく解説します。
目次
POD出版とは
POD出版とは、「Print On Demand(プリント・オン・デマンド)」の仕組みを利用した出版方法です。
あらかじめ書籍を大量に印刷するのではなく、読者から注文が入った段階で、必要な冊数だけ印刷・製本します。
従来の出版では、書籍をまとめて印刷し、在庫として保管する方法が一般的でした。しかし、予定した部数を販売できなければ、在庫の保管費用や廃棄費用が発生します。
POD出版では、注文された分だけ書籍を生産するため、在庫や保管場所を持たずに紙の書籍を販売できます。
一般的な出版の流れは次のとおりです。
- 原稿を執筆する
- 編集や校正を行う
- 本文のレイアウトと表紙を制作する
- 完成したデータを出版サービスへ登録する
- オンライン書店などで販売を開始する
- 注文後に印刷・製本する
- 購入者へ発送する
Amazonなどのサービスを利用する場合は、注文後の印刷・製本・発送までサービス側が行います。そのため、著者自身が在庫管理や梱包、配送をする必要はありません。
ただし、本文や表紙のデータは、利用するサービスが定める判型や余白、画像解像度などの基準に合わせて作成する必要があります。
POD出版と自費出版の違い
POD出版と自費出版は、どちらか一方を選ぶものではありません。
自費出版は「誰が出版費用を負担するか」を表す言葉であり、POD出版は「どのように書籍を印刷・製本するか」を表す言葉です。
自費出版とは、著者が出版に必要な費用を負担して書籍を制作する出版形態です。出版社が費用を負担する商業出版と比べて、著者の希望を反映しやすい特徴があります。
自分史や句集、写真集、研究書、企業史、記念誌など、幅広い内容の書籍を制作できます。
自費出版では、目的や部数に応じて印刷方法を選択します。
例えば、少部数で販売したい場合はPOD印刷、一定の部数を制作・配布したい場合はオフセット印刷を選ぶことがあります。
つまり、自費出版の印刷・販売方法としてPODを利用することも可能です。
「自費出版だから大量に印刷しなければならない」「POD出版なら出版社へ依頼できない」というわけではありません。
出版の目的や希望部数、予算、販売方法、求める品質を整理したうえで、適切な方法を選ぶことが大切です。
POD出版とオフセット印刷の違い
オフセット印刷とは、印刷用の版を作り、同じ内容をまとめて印刷する方法です。
最初に製版などの費用がかかりますが、部数が増えるほど1冊あたりの印刷費を抑えやすくなります。
一方、POD出版では版を作らず、デジタルデータから必要な冊数を印刷します。
両者の主な違いは次のとおりです。
| 項目 | POD出版 | オフセット印刷 |
| 得意な部数 | 少部数 | 中部数・大部数 |
| 初期費用 | 比較的抑えやすい | 高くなりやすい |
| 1冊あたりの印刷費 | 比較的高い | 大量印刷で下がりやすい |
| 在庫 | 原則として不要 | 保管が必要 |
| 納期 | 比較的短い | 工程が多くなりやすい |
| 印刷品質 | サービスや仕様による | 安定しやすい |
| 用紙・加工 | 選択肢が限られやすい | 幅広く選びやすい |
| 内容の修正 | データを更新しやすい | 原則として増刷時に修正 |
販売部数を予測しにくい場合や、1冊単位で長く販売したい場合はPOD出版が向いています。
一方、イベントや書店などでまとまった部数を販売・配布する場合は、オフセット印刷のほうが適している可能性があります。
POD出版のメリット
初期費用を抑えやすい
POD出版では、販売開始前に数百冊単位の印刷費を支払う必要がありません。
Amazon KDPの場合、書籍の印刷費は販売時のロイヤリティから差し引かれるため、印刷費の前払いや在庫の仕入れが不要です。
ただし、原稿の編集や校正、本文のレイアウト、表紙デザインなどを専門家へ依頼する場合は、別途制作費がかかります。
在庫を抱える必要がない
注文された冊数だけを印刷するため、売れ残った書籍を大量に抱えるリスクを抑えられます。
在庫を保管する場所も必要ありません。販売部数を予測しにくい場合や、自宅や事務所に書籍を置くスペースがない場合にも利用しやすい方法です。
1冊単位で販売できる
POD出版では、基本的に1冊単位で書籍を生産できます。
自分史や家族史、専門性の高い研究書など、読者が限られる書籍でも出版しやすいことが特徴です。
大量販売を前提とせず、必要とする読者に向けて長期間販売を続けられます。
絶版になりにくい
従来の出版では、在庫がなくなり、増刷の採算が合わなければ絶版になることがあります。
POD出版は販売用データが登録されている限り、注文に応じて書籍を生産できます。
専門書や郷土資料、研究書など、急激な売上は見込めなくても一定の需要が続く書籍を、長期間販売する方法として活用できます。
内容を改訂しやすい
誤字脱字や掲載情報の変更が見つかった場合、登録データを修正することで、次回以降に印刷される書籍へ反映できます。
法改正や制度変更などに合わせて、内容を定期的に更新する書籍とも相性のよい方法です。
ただし、ISBNやタイトル、著者名など、出版後に簡単には変更できない情報もあります。Amazon KDPでは、出版済み書籍のISBNを変更する場合、新版として出版し直す必要があります。
POD出版のデメリット
1冊あたりの印刷費が高くなりやすい
POD出版は、オフセット印刷で大量生産する場合と比べて、1冊あたりの印刷費が高くなる傾向があります。
特にページ数の多い書籍やカラー印刷では、印刷費が高くなります。印刷費に合わせて販売価格を設定すると、読者にとって購入しにくい価格になる可能性もあります。
少部数ではPOD出版のほうが費用を抑えられても、数百冊以上を販売・配布する場合は、オフセット印刷のほうが総費用を抑えられることがあります。
用紙や加工の選択肢が限られる
PODサービスでは、利用できる判型、用紙、インク、製本方法、表面加工などがあらかじめ決められています。
特殊紙や箔押し、型抜き、布張りなどを希望しても、対応できない可能性があります。
写真集や作品集のように、色の再現性や紙の質感、装丁にこだわりたい書籍は、事前に利用できる仕様や印刷見本を確認しましょう。
書店に並ぶとは限らない
Amazonで販売できることと、全国の書店に本が並ぶことは別です。
POD出版はオンライン販売と相性のよい方法ですが、一般書店での流通や店頭陳列を希望する場合は、利用するサービスの流通条件を確認する必要があります。
書店での展開を重視する場合は、出版社や出版サービスへ事前に相談したほうがよいでしょう。
販売促進は別途必要になる
POD出版を利用すれば、印刷や発送の負担を軽減できます。しかし、販売開始後に自動的に読者が集まるわけではありません。
書籍を知ってもらうためには、著者のSNSやブログ、メールマガジン、イベント、既存顧客への案内などを活用する必要があります。
出版方法だけでなく、完成した書籍をどのように読者へ届けるかも計画しましょう。
POD出版にかかる費用
POD出版にかかる費用は、「書籍を完成させるための制作費」と「販売時に発生する印刷費」に分けて考える必要があります。
書籍の制作費
主な制作費には、次のようなものがあります。
- 原稿執筆費
- 編集・構成費
- 校正・校閲費
- 本文の組版・レイアウト費
- 表紙デザイン費
- イラスト・写真の制作費
- ISBNの取得・管理に関する費用
- 販売登録や出版サポートの費用
- 見本誌・校正刷りの購入費
- 広告・販売促進費
原稿執筆から表紙制作までをすべて自分で行えば、制作費を抑えることは可能です。
ただし、文章の正確性や読みやすさ、印刷データの品質なども自分で確認しなければなりません。
出版社や制作会社へ依頼する場合は費用がかかりますが、編集、校正、装丁、本文レイアウト、入稿データの作成などを専門家に任せられます。
1冊あたりの印刷費
印刷費は、主に次の条件によって変わります。
- ページ数
- 本の判型
- モノクロまたはカラー
- 用紙の種類
- 利用する出版サービス
- 販売する国やマーケットプレイス
Amazon KDPでは、印刷費が「固定費とページ数に応じた費用」をもとに計算されます。
印刷条件や料金は変更される場合があるため、出版時にはKDPの公式ページや計算ツールで確認しましょう。
Amazon KDPでの収益計算
Amazon KDPのペーパーバックでは、販売価格にロイヤリティ率を掛け、そこから印刷コストを差し引いた金額が著者の収益になります。
計算方法は次のとおりです。
ロイヤリティ=販売価格×ロイヤリティ率-印刷コスト
例えば、販売価格が1,500円、ロイヤリティ率が60%、印刷費が500円の場合は、次の計算になります。
1,500円×60%-500円=400円
この場合、1冊販売されたときのロイヤリティは400円です。
販売価格を決める際は、読者が購入しやすい価格だけでなく、印刷費を差し引いたあとにいくら残るのかも確認する必要があります。
AmazonでPOD出版する流れ
Amazonでは、KDP(Kindle Direct Publishing)を利用してペーパーバックを出版できます。
1.KDPアカウントを作成する
Amazon KDPへアクセスし、Amazonアカウントを使用して登録します。
出版による収益を受け取るため、著者・出版者情報、銀行口座、税務情報などの登録も必要です。
2.原稿を完成させる
原稿を書き終えたら、編集と校正を行います。
誤字脱字だけでなく、内容の重複や説明不足、事実関係、表記の統一なども確認しましょう。
文章や写真、イラストなどについて、著作権や肖像権を侵害していないか確認することも重要です。
3.本文をレイアウトする
本の判型を決め、文字サイズ、余白、見出し、ページ番号などを整えます。
裁ち落としの有無や画像解像度、フォントの埋め込みなど、KDPの提出基準に合ったデータを用意します。
日本語のペーパーバックを制作する場合は、Wordや組版ソフトなどを使用して入稿データを作成します。
4.表紙データを作成する
表紙は、表表紙・背表紙・裏表紙をつなげたデータとして作成します。
背表紙の幅は、本文のページ数や用紙によって変わります。そのため、本文データとページ数を確定させてから表紙を制作するのが基本です。
Amazonの商品ページでは表紙が小さく表示されることもあるため、縮小した状態でもタイトルや内容が伝わるデザインを意識しましょう。
5.書籍情報を登録する
KDPの管理画面で、次のような情報を入力します。
- 書籍タイトル
- サブタイトル
- 著者名
- 内容紹介
- 検索キーワード
- カテゴリー
- 出版権の情報
- 対象読者
- ISBN
- 販売地域
- 希望小売価格
内容紹介や検索キーワードは、Amazon内で読者が本を見つけるためにも重要です。
想定する読者がどのような言葉で検索するのかを考え、書籍の内容が正確に伝わる情報を登録しましょう。
6.ISBNを設定する
ペーパーバックを出版する場合は、ISBNを設定します。
Amazon KDPでは、無料で発行されるKDP ISBNを利用する方法と、自分で取得したISBNを登録する方法があります。
無料のKDP ISBNには、KDP以外では使用できないなどの条件があります。
将来的にAmazon以外の流通経路でも同じISBNを使用したい場合は、独自ISBNの取得を検討しましょう。
7.本文と表紙をアップロードする
完成した本文と表紙のデータをアップロードし、印刷プレビューアーで確認します。
次のような点を確認しましょう。
- 文字や画像が印刷範囲からはみ出していないか
- 余白が不自然になっていないか
- ページの順番に問題がないか
- 画像が粗くなっていないか
- 表紙と背表紙の位置が合っているか
エラーが表示された場合は、該当するデータを修正して再度アップロードします。
8.校正刷りを確認する
印刷プレビューアーで承認したあとは、可能であれば出版前に校正刷りを注文し、実物を確認します。
画面と紙では、文字の大きさや写真の明るさ、色味、余白の印象などが異なることがあります。
本文だけでなく、表紙、背表紙、綴じ方まで確認し、必要があればデータを修正しましょう。
9.販売価格を設定して出版申請する
印刷費とロイヤリティを確認したうえで、希望小売価格を設定します。
その後、出版申請を行い、審査に問題がなければAmazonの商品ページで販売が始まります。
POD出版に向いている人
POD出版は、次のような人に向いています。
- 在庫を持たずに紙の本を販売したい人
- 最初の販売部数を予測できない人
- 少ない初期費用で出版したい人
- 自分史や家族史を少部数で作りたい人
- 専門書や研究書を長期間販売したい人
- 法改正や情報更新に合わせて改訂したい人
- 電子書籍と紙の書籍を販売したい人
- Amazonを中心に販売したい人
読者が限られる専門的な書籍は、最初から大量に印刷するよりも、注文に合わせて生産するPOD出版が適している場合があります。
POD出版以外の方法も検討したいケース
次のような場合は、POD出版以外の方法も検討しましょう。
- イベントなどでまとまった部数を配布・販売したい
- 全国の書店で積極的に展開したい
- 1冊あたりの印刷費をできるだけ下げたい
- 特殊な用紙や製本、加工を使用したい
- 写真や美術作品の色を細かく再現したい
- 発売時に一定数の在庫を用意したい
例えば、発売直後に500冊を配布する予定がある場合は、オフセット印刷のほうが総費用を抑えられる可能性があります。
「在庫を持たないPOD出版が必ず安い」とは限りません。必要な部数と用途を明確にし、制作費や印刷費、保管費、発送費などを含めた総額で比較することが重要です。
POD出版で失敗しないためのポイント
出版の目的を明確にする
同じPOD出版でも、書籍の販売によって収益を得たい場合と、個人や家族の記録として本を残したい場合では、適切な仕様や価格が異なります。
まずは「誰に、何のために届ける本なのか」を明確にしましょう。
目的が整理できれば、必要なページ数や印刷仕様、販売方法も判断しやすくなります。
販売価格から仕様を考える
希望する仕様を先に決めると、印刷費が高くなり、販売価格を上げざるを得ない場合があります。
特にカラー印刷やページ数の多い書籍は、印刷費が高くなりやすいため注意が必要です。
想定する読者が購入しやすい価格を考え、その範囲内でページ数、判型、カラーの有無などを決めましょう。
必ず実物を確認する
画面上で問題がなくても、実際に印刷すると写真が暗く見えたり、文字が小さく感じたりすることがあります。
販売前に校正刷りを取り寄せ、次の点を確認しましょう。
- 文字の大きさと読みやすさ
- 写真やイラストの色味
- 本文の余白
- ページの順番
- 表紙や背表紙の位置
- 製本や綴じ方
- 誤字脱字やレイアウト崩れ
実物を確認せずに販売すると、出版後に修正が必要になる可能性があります。
出版後の販売方法を準備する
POD出版は、在庫管理や発送の負担を軽減できる仕組みです。一方、読者を集めるための販売促進は、著者や出版者が行う必要があります。
例えば、次のような方法が考えられます。
- SNSで書籍の内容や制作過程を発信する
- ブログや公式サイトに紹介ページを作る
- メールマガジンで既存の読者へ案内する
- 出版記念イベントを開催する
- 関連する団体や店舗へ案内する
- 書籍のテーマに関する記事を継続的に発信する
出版前から情報発信を始め、発売時に書籍の存在を知っている読者を増やしておくことも大切です。
まとめ
POD出版とは、注文が入ってから必要な冊数だけ印刷・製本する出版方法です。
大量印刷や在庫保管が不要なため、販売部数を予測しにくい書籍や、少部数から販売したい書籍に適しています。Amazon KDPなどを利用すれば、個人でもAmazonで紙の書籍を販売できます。
ただし、まとまった部数を販売・配布する場合は、オフセット印刷のほうが費用を抑えられる可能性があります。紙や加工、書店流通などを重視する場合も、POD出版以外の方法を含めて比較することが大切です。
POD出版と自費出版は、対立するものではありません。自費出版の印刷・販売方法として、PODを活用することもできます。
労働教育センターでは、出版の目的や希望部数、ご予算に合わせて、自費出版に関するご相談を承っています。
「POD出版と通常の印刷のどちらが適しているかわからない」「原稿はあるものの、編集やデザインを自分で進めるのが難しい」という段階でも、まずはお気軽にご相談ください。

